
世界的ジャズピアニスト・小曽根真さんがリーダーを務めるビッグバンド「No Name Horses」。日本を代表するトップミュージシャンが名を連ね、姫路ではすっかりおなじみのエリック・ミヤシロさん(トランペット)、中川英二郎さん(トロンボーン)も参加しています。2022年に初のベスト盤「THE BEST」をリリース、全国ツアー「小曽根真 featuring No Name Horses THE BEST」の真っ最中。2023年2月11日(祝)にアクリエひめじ 中ホールで開催される姫路公演に向けて、小曽根さんのインタビューをお届けします。
――まずはアルバム「THE BEST」について。前回の「Until We Vanish 15×15」は結成15周年記念でした。20周年を待たずにベスト盤をリリースした理由は。
特にこだわりはないんです。これまで6つのアルバムをリリースしていて、このへんで作っておかないと3枚組になってしまいそうで(笑)。
――(爆笑)
(真顔で)いやほんとそうなんですよ。本当を言うとね、ベスト盤の中に「ラプソディー・イン・ブルー」も入れたかったんです。だけど1曲で30分ありますから、諦めました(笑)。
選ぶの結構大変やったんです。僕の曲だけじゃなくてメンバーが書いてくれた曲もちゃんと入れたくて。たとえば岡崎好朗(トランペット)の「ミヤビ」とかね。「No Name Horses Ⅱ」というアルバムに書いてくれたんですけど、せっかく書いてくれてレコーディングもしているのに、コンサートのセットリストに入れられないことも多くて。
アルバムなら70分なんですけど、コンサートになるとアドリブが増えるので、90分、100分みたいになってくる。ショーとしてやっぱりそれはちょっとキツくて、「この曲、好きやのにセットリストに入れられへん!」っていう曲がいくつもあったんです。だから今回は、そこにもう一度スポットを当てたくて、ベスト盤に入れました。要するに、No Name Horses(以下NNH)のベストというならば、どの作品も大切にしているんだということを、ちゃんと伝えたかったんです。各公演のセットリストも会場ごとに変えて、多くの楽曲をツアーを通じて演奏します。
――ということは、姫路のプログラムは姫路でしか聴けない?
そのとおりです。しかもNNHは、譜面どおりにやっている曲やのに、同じ曲が、毎回違います。ソロはもちろんぜんぜん違いますけど、僕が「譜面どおりのイントロ弾きたくないなあ」と思ったりしたら、イントロから変わる(笑)。それでもみんな楽しんでちゃんとついてくる。すごいバンドなんです。
――CDをずっと聴いていた人は「この曲なに?」となりそうですね。
「え、なんやろなんやろ。あ? えぇ? この曲やったの?」みたいなサプライズはたくさんあります。僕はまず、メンバーをびっくりさせたい人間なんで(笑)。
――メンバーが「ちょっと待って、次はこの曲じゃなかったっけ」って戸惑いませんか?

みんなそれを楽しめるすごい人たちばかりですから。ジャズのライブでいうと、コンボ(小編成のグループ)ってね、ピアノトリオとか、あるいはサックスが1本増えてクインテットまでじゃないですか。それだと目くばせで(こう来て、次サビから入って)とか(ここのイントロなしで)とか、そういうやり取りができるんですけど、NNHは大所帯で距離があるから「イントロなし!」とか叫ばなあかんでしょ。そういうのをやらなくても、僕がなにをやっても全部ついてくる、すごいメンバーです。
ビッグバンドなのに、コンボのようにやり取りができる。だから僕は「ビッグバンド」というよりも、「ラージ・コンボ」という感覚なんです。みんなで自由に創っていけるコンボ、それがラージサイズだということです。
――ベスト盤なのに、新曲が入っていることにも驚きました。
せっかく出すんだったら、このアルバムを買う意味があったほうがいいじゃないですか。レコードやCDの時代だったら、今までの曲を続けて聴けるという楽しさがあったけれど、いまの時代、音楽は基本、ダウンロードですよね。プレイリストやベスト盤が自分でつくれます。僕個人として、いままでの音源をまとめただけのベスト盤を出すことに、なんか申し訳ない気持ちがあったんですよね。ポップスだと1曲が3~4分で、20曲あっても1枚に収まりますけど、僕たちのは7~8分ありますから、ベスト盤にしようと思ったら2枚になる。2枚組になると値段も上がるし…… という気持ちもあって。新曲は「1曲だけ入れるわ」って、メンバーに言ってたところ、3曲に増えて、みんな「え、3曲もやるの?」って(笑)。
――ほぼオリジナル曲でアルバムを作るのが「NNH」の特徴では、と感じます。
そこは僕がデビューしてからずーっとこだわり続けてきたことです。これはあくまで僕の個人的な考え方によるものですが、スタンダードを演奏すること=ジャズ、じゃないと思うんですよ。もちろんスタンダードはいい曲で、だから残っているんですけど、ジャズのレジェンドたちはみんな自分の曲を残してきている。クラシックだって同じで、作曲家がいるから曲が生まれる。ジャズも、新しい曲が生まれ続けなきゃいけないと思うんです。
――スタンダードも、最初はオリジナルですもんね。
だから僕はとにかく、自分のオリジナル曲で音楽を創っていこうと、それがデビューからずーっとやってきたことです。それは先輩、ゲイリー・バートン(注:アメリカのヴィブラフォン奏者)に教わったんです。
ただ、オリジナルが「あの曲に似てるね」と言われることはあったりします。モノをつくる、創作していくということは、言葉を覚えるのと同じで、必ず最初に模倣がある。模倣がないところからは絶対に生まれないんですよ。絶対に。コピーを自分のものとするのはダメですけど、影響を受けることはすごく大事です。
若い才能を世界に紹介するプロジェクト「From OZONE till Dawn」を立ち上げたんですが、彼らには「とにかくオリジナルを創れ」と伝えています。それがいまのジャズにいちばん足りないんだ、自分の音楽を創ってジャズ界に残していけ、ちゃんと音楽を捧げなさい、って。
オリジナルを弾くっていうのは、他に比較するものがないっていう良さもあるんです。スタンダードには名演奏が残っていて、弾くときにどうしても意識してしまいますし。でも、自分の音楽で、自分で演奏して、お客さんに「NO」と言われると、もう逃げ場がないですよね(笑)。自分の音楽を魅力的な曲にする、それが難しいんですよ。
――それは意外です。
僕はいったん書いたら作曲家の立場は忘れて、演奏家の帽子をかぶる。作曲でこだわったところはなんとかしたい、でも演奏家としてはそこが弾きにくい、というのがある。こだわって書いたところこそ弾きにくいし、実はたいしたことを書いてなかったりもする。
自分が弾きたいと思う自分の曲っていうのは、30分くらいでワンコーラスが書けたような曲で、いくつかあります。僕はたぶん400~500曲は書いていると思うんですけど、「ホーム」とか「アジアン・ドリーム」とか、僕の1曲目、デビューのときの「クリスタル・ラブ」もそう。そういう曲はいまだに弾きたいと思うし、大事にしています。
あと、ジャズに関しては、誰かの曲を演奏しているときは、アドリブをするにしても、題材、素材を取り入れるなど、その誰かのエネルギーをもらっているわけなんです。オリジナルは知らない曲なのにもかかわらず、楽しかった、なにかを感じた、元気になった、って言っていただけて、これは他に代え難い喜びです。

――オリジナルのほうがジャズの間口が広がるのではないかと?
そうなんです。そこで僕がこだわっていることは、ブルースがないとだめっていうことなんですよ。音とか響きとか、聴いたときに「あぁ、これこれ」「これはたまらん」という、なにかキュンとくる、ジャズのエッセンスみたいなものを求めているんです。
たくあんみたいなものです。たくあんを食べたときに、カスタードの味がしたら嫌でしょ。僕にとって、そういうジャズがたまにあるんですよ。「たくあんやねんから、たくあんの味させてくれや」ていう(笑)。「これぞ日本の味」みたいに、ジャズにはジャズのエッセンスがあって、それは絶対に守りつつ、自分の音楽を書いていますね。まあ、親のおかげで子どもの頃からブルースを聴いていたから、そのあたりを感じられる人間になっているんだと思います。親に感謝です。
――ところで、小曽根さんは神戸のご出身です。姫路の思い出はありますか。
二階町商店街? みゆき通り? どこの商店街か思い出せないんですけど、中学生ぐらいの頃、トラックに乗ってハモンドオルガンを弾いたことがあります。たしか、ゆかたまつりかな。サンバ隊もいたりして。そこで演奏を頼まれて、ハモンドオルガンを派手に弾いた想い出があります。
それ以外にも、よく行きましたよ、姫路。友人が住んでいたり、お気に入りのステーキ店に月イチで通ってた時期もあったりして、姫路はめちゃくちゃ縁があるんです。姫路はもう、大好きですよ。ほんとに。すごく好きです。
――2月の公演には、ジャズは初めてという方にもお越しいただきたいと思っています。ぜひ、メッセージを。
「ジャズがわからない」という方も、安心してください。弾いてる僕もぜんぜんわかってないですから(笑)。ほんと、楽しいだけです。わからないと聴けないようなジャズもあるでしょうが、NNHは絶対にそうじゃない。ほんっとに楽しいです。うーん、なんていったらええかなあ。聴くというよりも、音圧を感じてほしい。管楽器の12人が本気で吹いたときの空気の振動、あれは気持ちいいですよ。全部の毛穴から音楽を聴くような感じというか、音浴というか。ほんとにそんな体験になると思います。
――難しいことは考えずに、音を浴びる。

考える余裕を与えないと思います。うちのバンド、楽しいから(笑)。CDももちろん良いんですけど、やっぱりコンサートってね、その瞬間に生まれる音楽の楽しさがある。いろんなハプニングも含めて、やっぱり楽しいですよ。みなさんにはとにかく、生でしか楽しめないものを、味わいに来ていただきたい。それがいちばん伝えたいことですね。
(2022.11.25、フェニーチェ堺にて)
【インタビューを終えて】
小曽根さんは想像していた以上に気さくで、楽しい人でした。関西弁だし、きちんとオチがあるし、話題が広がる広がる。時間が許せばもっといろんなお話を聞きたかったです。
15人で繰り広げられる、その日、その場かぎりの音楽で、ジャズの醍醐味が味わえること間違いなしです! 僕のイチオシ「ノー・シエスタ」を、ぜひ聴きに来てください!(N)
アクリエひめじオープニングシリーズ
小曽根真 featuring No Name Horses THE BEST
【出演】
小曽根真(ピアノ)
エリック・ミヤシロ(トランペット)
木幡光邦(トランペット)
奥村 晶(トランペット)
岡崎好朗(トランペット)
中川英二郎(トロンボーン)
半田信英(トロンボーン)
山城純子(バス・トロンボーン)
近藤和彦(アルト・サックス)
池田 篤(アルト・サックス)
三木俊雄(テナー・サックス)
岡崎正典(テナー・サックス)
岩持芳宏(バリトン・サックス)
中村健吾(ベース)
高橋信之介(ドラムス)
- 会場
- アクリエひめじ 中ホール
- 開催日時
- 2023年2月11日(土曜日)17時00分開演(16時15分開場)
- 入場料等
- 一般 5,000円 高校生以下 2,500円
※全席指定 ※未就学児入場不可 - 発売日
- 一般発売:11月10日(木曜日)
財団友の会:11月8日(火曜日) - プレイガイド
- ◆パルナソスホール TEL.079-297-1141
◆姫路キャスパホール TEL.079-284-5806
※上記プレイガイドの営業時間は、10時00分~17時00分です。
※財団友の会、一般発売初日の電話受付は、11時00分からです。 - ◆ローソンチケット Lコード:55810
※別途発券手数料がかかります。
◆アクリエひめじ(窓口販売のみ)
※営業時間 9時00分~18時00分(販売初日は10時00分~)。 - お問い合わせ先
- 姫路市文化国際交流財団 制作チーム TEL.079-297-1141